2014/11/08

秋冬グラデーション (You'll Be Alright)

♪秋冬グラデーション (You'll Be Alright)



録音:2014年
機材:iMac Logic

ケヤキ「カエデさん、おはよう。今日も綺麗ね」
カエデ「おはよう、ケヤキさん。やめてよ、あなたこそ綺麗よ」
ケヤキ「都心の方では、イチョウさんがアスファルトとかいう硬くて味っけのない地面を黄色く染めて、それはもう高級な絨毯みたいだって、私、絨毯なんて見たことないのだけれど、こないだ来た人間が言っていたわ」
カエデ「そうなんだ。いいなぁ。この山にはイチョウさんいないから、私たちには見られない光景ね。私も足が欲しいなぁ」
ヤマウルシ「なに辛気臭いこと言ってるんだ」
カエデ「わぁ! ヤマウルシさん、急に重低音で喋らないでよ。びっくりする」
ヤマウルシ「うむ」
ケヤキ「うむって、どういう意味かしら」
ヤマウルシ「そんなことより、さっきの話だが」
ケヤキ「なんだったかしら?」
ヤマウルシ「足がどうのこうのという話だ」
カエデ「それがどうかしたの?」
ヤマウルシ「足なんて必要ない、と言いたい。地に根を張っている俺たちの方がずっとたくましくて強いじゃないか。台風が来ようが、木枯らしが吹こうが、俺たちはこうして立っているじゃないか」
カエデ「それはそうだけど……。見たことのない景色を見てみたくなることだってあるんだよ。私たちの知らない世界が、この世にはたくさんあるんだ。私たち、隣の山のことですら、てんで何も知らないんだもん」
ヤマウルシ「興味ないね。俺はこの山が好きだ。ここ以外に見たいところなどない。人間なんかふらふら歩いて、それだけでは飽き足らず、車やら飛行機やら造ってびゅんびゅん移動して、そうして七〜八十年で死んじまうじゃないか。馬鹿みたいだ。俺のように最低でも二百年は生きなきゃならん」
ヤマツツジ「いやに人間を嫌うんだね。親戚のウルシさんが、人間の使う漆器なんかに利用されているから?」
ヤマウルシ「ヤマツツジ、お前、起きていたのか。久々に目を覚ましたと思えば余計なことを言う。漆器など関係ない」
ヤマツツジ「漆塗りは高級品だそうだよ」
ヤマウルシ「貴様、引っこ抜くぞ」
ケヤキ「まあまあ。木々それぞれ思うことも違うでしょう。しかし、ヤマウルシさんは、何かと言ってはカエデさんの言うことにつっかかるけれど、なぜなのかしら?」
ヤマウルシ「そんなことはない」
ヤマツツジ「ケヤキさん、そんな分かりきったこと聞いてどうするの?」
ケヤキ「あら、私は何も知らないわ」
ヤマツツジ「ふぅん」
ケヤキ「それはそうとヤマツツジさん、最低でも三日に一度くらいは起きなさいね。本当に寝坊助さんなんだから」
ヤマウルシ「ふん、こいつはチビ助な上に寝坊助だ」
ヤマツツジ「ヤマウルシさん、朝っぱらから大きな声出さないでよ。根に響く」
ヤマウルシ「もう昼だ」
カエデ「あ、また人間が来たよ」

翁「ゼェハァ、いやぁ、綺麗だなぁ、ゼェハァ」
婆「いつまでもこのままだと嬉しいわね」
翁「このヤマウルシは大きいなぁ。樹齢百年といったところかな」
婆「うん。立派なヤマウルシだわ」
翁「見てくれ! このカエデ! 綺麗だなぁ。もし人間だったらさぞかし美人さんだろうなぁ」
婆「ほんとねぇ」
翁「ここは良いスポットだな。ここで少し休もう」
婆「そうね。随分息も上がってるみたいだし、休憩しましょう」

ヤマウルシ「あのじじい、俺のこと樹齢百年って言いやがった。俺は今年で二百歳だ。しかも俺の根元で気持ち良さそうに眠っていやがる」
ケヤキ「いいじゃないの。減るもんじゃあるまいし」
ヤマツツジ「そうだよ。ほんとに口が悪いんだから。こないだ人間に持って行かれて上京した兄さんも、ヤマウルシさんのこと今の時代には珍しい堅物だって、生きた化石だって、琥珀でも取れるんじゃないかって言ってたよ」
ヤマウルシ「兄弟揃って、その減らず口。どうにかならんか」
カエデ「喧嘩はよしなよ」
ヤマツツジ「ねぇ、カエデさんのこと、美人さんだって言ってたね」
ケヤキ「そうね」
カエデ「聞こえなかったよ」
ヤマツツジ「ほんとう? 確かに言ってたよ。ヤマウルシさんも聞こえたでしょ?」
ヤマウルシ「うむ」
ヤマツツジ「ほらぁ、ヤマウルシさんに聞こえて、カエデさんに聞こえないはずが無いよ」
カエデ「いいの! そんなこと。私そういうの苦手。なんて返したらいいかわからないからやめて」
ケヤキ「カエデさんは照れ屋ね」

婆「体に障りますよ。そろそろ起きてください」
翁「ん? ああ」
婆「そろそろ戻りましょう。紅葉も満喫したし」
翁「そうだな。山は下る方がキツイんだよなぁ。膝が笑っちゃうわい」
婆「しっかりしてくださいな」

ヤマウルシ「ハハッ、聞いたか。足があるとあんな惨めなことになるのだ。俺たちのように落ち着いて、ペースを乱さず生きるるためには、やはり地に根を張るに越したことはない」
カエデ「やだ、そんな悪口ばかり言って」
ヤマツツジ「そうだよ。カエデさんに嫌われちゃうよ?」
ヤマウルシ「何を言うんだ。そんなことはどうだっていい」
ヤマツツジ「ふぅん、それならいいけど。僕知ってるんだ」
ヤマウルシ「そろそろ黙ったらどうだチビ助」
ヤマツツジ「むっ、チビチビ言うけどね、僕はね、背が低い代わりにね、人間の話がよく聞こえるんだ。いつも人間の話を聞かせてやってるのは僕だろう? ヤマウルシさんだって興味津々で聞いてるじゃないか」
ヤマウルシ「人間になど興味はない」
ヤマツツジ「嘘ばっかり。その割には、話して聞かせている僕よりもいつの間にか人間に詳しいんだから。素直になりましょうよ。さっき言ってた車やら飛行機やらの話なんて僕はとうの昔に忘れてたよ」
ヤマウルシ「俺は記憶力が良いのだ」
ケヤキ「ヤマツツジさんが聞かせてくれる人間のお話はいつも楽しいわ。また聞かせてちょうだいね」
ヤマツツジ「お安い御用です」

翁「さて、行こうか。これ以上登っても、もう冬枯れだしな」
婆「そうね。じきに山全部が冬枯れになってしまうのね」

ヤマツツジ「ケヤキさん、ケヤキさん」
ケヤキ「なぁに? ヤマツツジさん。少し眠いのだけれど」
ヤマツツジ「昼間、老夫婦が来たじゃない。みんなには聞こえなかったかもしれないけど、帰りにボソっと言ってたんだ。二人の話によると、もう上の方のみんなは冬枯れらしいんだ」
ケヤキ「まぁ……。そう。最近めっきり寒くなってきたものね」
ヤマウルシ「……」
ヤマツツジ「そうだね。僕は今の自分の姿が一番好きなんだけどなぁ」
ケヤキ「私もだわ。みんなお揃いの緑も悪くはないのだけれど、今の時期は個性的な姿になって、それぞれ素敵だわ。特にカエデさんの姿、私大好き」
カエデ「もう、また。やめてくださいケヤキさん。私の葉、さらに赤くなっちゃう」
ヤマツツジ「あはは、カエデさん面白いなぁ。人間みたいにシャレたこと言うね」
カエデ「何も、面白い事なんてないよ。真剣に言っているの」
ヤマツツジ「カエデさんらしいや。ね、ヤマウルシさん?」
ヤマウルシ「……」
ヤマツツジ「ヤマウルシさん? どうしたの?」
ケヤキ「ヤマツツジさん、そっとしておいてあげなさい。ヤマウルシさんは、泣いているのよ」
ヤマツツジ「え? あぁ、またか」
ヤマウルシ「……。う、うぅ、うるさいぞ」
ヤマツツジ「ごめんごめん、大人しくしてるよ。涙が枯れるまで泣いたらいいよ」
ヤマウルシ「う、うぅ。枯れる? 枯れるだと? それだ。俺の涙の理由はそれだ。また今年も冬枯れの季節だ。毎年々々、この時期になると涙が止まらぬ。寂しくてならぬ。冬枯れの後はひたすら忍耐。冷たい風が吹いて、雪が降って、根元が冷えてたまらない。俺は冬が嫌いなのだ。若造のお前には分かるまい」
ヤマツツジ「分かってるよそんなこと。僕だって嫌いさ」
カエデ「ヤマウルシさん元気だして。私たちがいるじゃない。寂しい事なんてない」
ヤマウルシ「う、ぅう」
ヤマツツジ「カエデさんにそんなに優しくされたら、ヤマウルシさんまた惚れちゃうよ」
ケヤキ「でも、本当に冬枯れっていやね。寒いのに葉が無いなんて余計に寒いわ。ヤマツツジさんが以前話していた、なんだったかしら、ほら、人間が冬になると着る、動物の毛や皮で作る……」
ヤマツツジ「コートかい?」
ケヤキ「そうそう、コート。私もコートなんか着てお洒落してみたいわ」
ヤマツツジ「ケヤキさんが人間だったら、キャリアウーマンみたいになりそうだ」
ケヤキ「きゃりあううまん? なにそれ?」
カエデ「ああ、どうしよう。ヤマウルシさん、泣き止まないよ。私まで泣きたくなってきた」
ヤマツツジ「やめてよカエデさん。僕だってずっと堪えてるんだ。カエデさんまで泣いたら……」
ケヤキ「お互い、涙を見せるのはやめましょう。泣きそうなら、涙枯れるまで、俯いていましょう。冬だっていつか終わるのだもの。また来年、ね。それまで、清く正しく生きましょう」



また泣きそうなら
涙枯れるまで
俯いていていいよ
涙雪に変わるまでは
いつでも

小さい秋は
誰にも知れず
木枯らしの中
一人咽び泣く

Just talk to me tonight
You’ll be alright
秋雨の中
Just walk with me all night
You’ll be alright
You’re in debt to me

冬の意地悪
ひとの気も知らず
風に任せて
また知らぬふり

Don’t let you cry tonight
You’ll be quite white
寒空の下
Don’t let you sigh all night
You will ask me why
Trust in all you see
All you see

でも泣きたいなら
落ち葉積もるまで
俯いていていいよ
やがて土に還るだろう
それから……

今はグラデーション
混じり合う季節
頃合いを見て
どちらかに転べ

You just have to decide
You’ll be alright
冬枯れの空
You have to be on my side
I don’t say goodbye
You’re in debt to me
To me

La la la la la la la la

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