2016/12/17

The Beach Boys - I Just Wasn't Made For These Times (駄目な僕)〜Stack-O-Vocals編〜

♪I Just Wasn't Made For These Times (駄目な僕)〜Stack-O-Vocals編〜


録音:2016年
機材:iMac Logic

 声は、人類が手にした初めての楽器だったかもしれません。昔々は敵を威嚇したり、食料のありかを知らせたり、そういったことに声を使っていたはずです。それから、人類は自分の喉が様々な音を出せることに気がつき、音にひもづく意味を細分化して、言語を創ることに成功しました。言語のおかげで思考が整理され、複雑なことも考えられるようになりました。
 人類は、生きていくこと、種を残していく上で様々な試練に直面しました。干ばつ、そこから連鎖する食糧不足、地震、山火事等の自然災害。人類は、自分たちの力ではどうにもならない各種事象を理解しようとして、神様という存在を作り上げ、畏怖するようになります。なぜ雨が降らないのか、なぜ山が燃えたのか、意味が分からなくて怖すぎる。そのせいで水も食糧も足りない。このままでは全滅だ。喉が乾く、腹が減るというのは死に直結する感覚なので、非常な恐怖だった。恐怖に打ち勝つには、真っ向勝負で立ち向かう、という方法もありますが、何したって、神様には敵うはずもない。毎日恐怖にさらされて、何もできない。こんなことが続くと頭がおかしくなりそうです。どうにもならい。ああ、もうだめだ。諦めてみんなで声出そう。最後の悪あがき。みんなで声出して踊れば、楽しいかもしれない。迫り来る死の恐怖を、一時的にでも、少しの間でもいい、忘れたかった。
 その夜、乾ききった枯枝に火をつけて、その周りをみんなで声出して踊った。楽しかった。一瞬、空腹を忘れた。少しの間、恐怖心がどこかへ消えた。やがて、疲れて眠った。明日はもう、目覚めないかもしれない。以前飲んだ雨水の美味しさが脳裏をよぎった。意識が遠のいて、目覚めないかもしれない眠りについた。
 ふと、顔に冷たい感覚を覚えて、目が覚めた。まだ生きている。体の感覚に意識をやると、所々に冷たい感覚がある。ポツ、ポツ。その感覚は知っていた。雨だ。恵みの雨。空はどんより灰色。雲が落ちてきそうだ。しばらくぼうっと空を見ていると、みるみるうちに空の色が濃くなり、さらにさらに雨が降ってきた。慌てて周りのみんなを叩き起こした。雨だ、雨が降った! 狂喜乱舞。その雨は数日間降り続き、動植物に活力を与えた。どうにか、生き延びることができた。
 綺麗な水、豊かな木の実を囲みながらみんなで話した。あの時は、本当に死ぬかと思った。あと一日でも降雨が遅かったら、俺は死んでいた。俺はあの夜が明けたら海水を飲もうと思っていた。あれは辛くて飲めない、などと、話にも花が咲いた。すると、何にでも理由を求める理屈っぽい奴がいて、なぜ急に雨が降り出したのか、と言い出した。アメダスも何もない時代、誰もが首をひねった。分からないのだ。分からないことは、すべて神様の思し召しだった。あの日、普段と違ったことといえば、みんなで火を囲んで、声出して踊ったことしかなかった。あれだ。あれしかない。あれが神様のお気に召したのだ。
 それからというもの、何か困ったことがある度に、人類は神様に声で訴えるようになりました。現実は甘くないので、それが功を奏したと思われる時もありましたし、そうでない時もありました。それでも、訴えた後に良いことがあった、その記憶の方が人類に刷り込まれ、後世にどんどん伝えられていきました。
 それから何百万年の時を経る中で、人類は水源の確保、農耕や牧畜、建築、製造等の技術を獲得し、食糧難や災害の被害にさらされる頻度は著しく減少しました。いつしか、あの、声による「訴え」の儀式は、「歌」という娯楽文化に発展しました。歌そのものを楽しめるようになりました。あの人の声は良い、そのリズムは気持ちが良い、このメロディは美しい。
 こう考えると、歌の歴史というのは、もう何百万年にもなります。人間が歌声に、他の楽器にはない魅力を見出すのは、こういったことが根底にあるのではないか、と思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿